情熱を持ち輝き続けて見える人にも、人知れず悩んだり迷ったりした時間がある。
華やかなテレビ業界で10年のキャリアを積み、多くの看板番組を担当。誰もが憧れるような環境を離れ、立ち上げ直後のスタートアップへと転身を果たした、元TBSアナウンサーの国山ハセン氏。
そして、自信が持てなかった会社員から一転、多くの生徒さんへ自らの人生を輝かせるための「武器とマインド」を授ける超人気マナー講師として活躍する・末永貴美子氏。
異なる道を歩んできた2人が、はじめて対面。情熱の原点と心の火を燃やし続けるための秘訣を語り合った。2つの炎が交わると、どんな化学反応が起きるのか──。
「このまま死ぬのはイヤ!」勢いで退社
国山: 末永さん、はじめまして。国山ハセンと申します。
もともとTBSというテレビ局でアナウンサーとして10年間勤務し、2022年末で退社しました。その後、ネットメディアのスタートアップ「PIVOT(ピボット)」に参画し、MC兼プロデューサーとして番組制作と出演を担当しています。

PIVOT株式会社 MC・プロデューサー
TBSテレビにてアナウンサーとして「news23」「Nスタ」「アッコにおまかせ」等、報道番組キャスターからスポーツ、情報、バラエティ番組まで幅広く担当。2023年1月よりPIVOTにプロデューサーとして参画。番組出演・企画制作を担当。サッカーと日本酒を愛する1児の父。
PIVOTのターゲットはビジネスマンなので、資産運用や健康、教育、語学学習など、ビジネスパーソンが学びたい内容をコンテンツとして発信しています。ほかにもテレビ出演やラジオなど、今までのキャリアを生かした活動を継続しています。
末永: ハセンさん、お会いできて光栄です。末永貴美子と申します。私は、2020年から「大人の品格マナー講師」として活動しています。
国山:末永さんのプロフィールに「生まれた時からの億女」とあったのが印象的だったのですが、やはり育った環境が今のお仕事につながってるんですか?
末永:祖父が創業者で、最終的に関西の高額納税者リストに載るほど会社を大きくしたのは事実です。私が3代目にあたり、広い庭園を要する800坪の屋敷で生まれ育ちました。
幼い頃に上質なものに触れる環境があったことは、もちろん今の仕事に生きていると思います。「2番手ではなく、1番のものを選びなさい」と、祖父に教えてもらいました。
でも、実家とマナー講師になったことは、実はまったく関係ないんです。

マナー講師・着物講師
祖父は褒賞受賞の経営者、祖母は茶道の師範という家で生まれ、幼少期より800坪の日本庭園のある屋敷で育つ。マナースクール「美礼塾」主催。一流店で五感を磨きながら学ぶレッスンは、マナーの型を超えた「在り方」を変化させ人生がステージアップする受講生が続出。SNSではInstagramを中心にわかりやすいマナー解説が人気で、総フォロワー数11万人を突破。著書に『ふだんのふるまい帖 ふつうに生きているだけで一目置かれる人になる』(KADOKAWA)
幼い頃から“お嬢さん”って呼ばれるのが、すごく恥ずかしかったのは覚えていますね。私に実力は、なにもないのにって。変な自己肯定感の低さを抱えたまま、2019年までの14年間は、会社員として事務のお仕事をしていました。
もう本当に役に立たない社員で、両脇に誰もいない後ろのほうの席で、ひたすらネットサーフィンをしているような……(笑)。
それがむなしくてむなしくて、「このまま40歳になって、50歳になって、私は死ぬのかな」「もう限界だ!」と一念発起して、会社を辞めたんです。
国山:えぇ、まさかそんな経緯なんですね。幼い頃からみっちりとマナーを学んで来られたのかと思っていたので、びっくりです。
末永:しかも、当時は明確なビジョンもなかったので、保育士の資格を取ったり、かなり紆余曲折しながらマナーに出会ったのは、会社を辞めて2年ほど経ってからです。
40歳を目前にし、さまざまな方と接するなかで、肩書や収入の高い方でも尊敬できないなと感じる人がいる一方、なにげないご挨拶だけですごく素敵だと感じる方がいらっしゃって。その違いはなんだろう、と。
自分の趣味としてマナーを学んでいた時に、着物を着て「マナー講座に行ってきました」と写真をSNSに投稿したところ、普段の投稿の5倍ほどの反応があったんです。最初は着物のおかげかなと思いましたが、投稿を続けているとやはり反応がよくて。
ただの趣味だったので、すぐに「マナー講師になります!」と宣言できるほど自信はなかったのですが、本当の情熱はやはり当時からそこにあって、「でも、私なんかが……」と弱気なりそうな気持ちを、たくさんの方から「末永さんには、これが向いているよ」と後押ししていただいた感じですね。みなさんの「いいね!」やコメントのお陰で今があります。
他人の人生を「前向きに」できる喜び
国山:いやぁ、導かれるようにマナー講師になられたんですね。
私の転職も、最終的には衝動に突き動かされた部分がありました。もちろん悩みに悩んだ上ですが、決定打となったのは、勇気とか覚悟とか「今、ここでやるしかない!」という強い気持ち。ちょうど勤続10年という節目でもあったので
末永:わかります。私も40歳が来るってことにすごく影響されました。
国山:そうした、なにげないきっかけで人生って変わるんですよね。
当時から、伝える仕事は大好きでしたが、私は番組に出演するだけではなく、番組を作る側にも関わりたいと思ったんです。誰に話を聞くかを自分で考えたり、セルフブランディングやセルフプロデュースにも挑戦したりしたいと。
それが実現できそうな環境に一歩踏み出してみて、やっぱり自分は人に話をうかがって、それを伝えることが好きなんだと、再確認できました。
末永さんが、精力的にマナー講師を続けられている原動力はどこにあるんですか?末永: 「貴美子先生のおかげで人生が変わった」と言っていただける方を少しでも増やしたい気持ちですね。
自己肯定感が低くて、14年間、誰の役にも立てていないと思いながら会社員生活を送っていたので、「目の前のお客様に『ありがとう』と言われる仕事を人生で一度でもできたら」と。
渇望していた環境が、今、目の前にあることにすごく幸せを感じていますし、私のところに通ってくれる生徒さんの「変わりたい。でも、私なんかが」という尻込みしちゃう気持ちもわかるんです。
私が開催している講座は、1回で40人を受け入れる半年間のコースで、プログラムには必ず一流店での食事が組み込まれています。一度にお店に入れるのは8人なので、私は同じ店に何度も通うことになり、正直、効率はよくありません。でも、リアルな体験がすごく大切だと思っているので、これは続けていきたいですね。
国山: お客様からすると、末永先生も「私と同じ気持ちだったんだ」と知るだけで安心できますよね。今の時代、まさに“誰から学ぶか”というニーズの高まりを感じています。
テレビの前で発信する時は、カメラの向こうにどんな方がいて、何人の方が見てくれているのかがわからないんですが、現場では、目の前の取材対象者や協力いただいた方々に、ちゃんと向き合うことを私も大切にしてきました。
それを忘れると、なんのためにやっているのかが、わからなくなっちゃいますよね。
目の前の人のポジティブな変化が見られるのは、この仕事じゃないと体験できないことだと思います。
末永: 私の講座には40歳前後のキャリア女性と、50代半ばで子育ての手が離れた方が多いんです。
たとえば、50代の方々は「結婚して専業主婦になり、夫と子供を優先して生きていけば幸せになれる」と言われた時代を生きてきましたが、今は人生長いし、まだまだ元気な年代です。
子供が手を離れた時に、時間とお金はあるけど、「なにをしたらいいんだろう?」となってしまう。自分の人生の優先度を下げて生きてきたから、なにが好きなのかさえ、わからないんです。
でも、私の講座に参加いただくなかで、見違えるように変わっていく方をたくさん見てきました。
最初は「すみません。こんな私がこの席に座っちゃって、すみません」みたいな感じなのに、超一流の体験を通して、自信がついて、オーラがパーッと出てくるんです。
マナーは「自分の人生を満たす」ための道具
国山: おもしろいですね。私は、マナーや振る舞いって人生を豊かにしてくれるものの一つだと思っています。
普通の大学生だった私も、社会人になって、言葉遣いやお店での振る舞い、礼儀などを習得していくなかで、少しずつレベルアップしていく感覚がありました。
でも、こういうことって教えてもらわないとわからないです。末永: 本当にそうです。今は情報があふれすぎていて、マナーも“つまみ食い”ができるので、本質がなにかわからなくなっている人が多いと感じます。先生によっても、お話されることが違うので「結局、どれが正解なの?」と。
私が大切にしているのは、「自分が満たされて、お相手を大切にできる」こと。
マナーはあくまでツールで、自分とお相手を大切にするためのものです。「こうやったらみんなが心地よい」という教科書だと思っています。
「あの人のマナーはダメ、私は正しい」という優越感のために使うのはマナーの本質ではありません。
国山: 末永さん、実は気になっていることがあるんです。
たとえば、食事の際に、おしぼりを使った後、おしぼりはテーブルのどこに置いたらいいのか。包装の袋は見えないように隠した方がいいのか。どうすればいいんでしょう?(笑)。
末永: カジュアルなことほど、答えがはっきりしていないんですよね。
おしぼり自体は隠すべきものではないので、畳んでテーブルの隅に置くスタイルで大丈夫です。でも、グシャグシャに丸めたおしぼりを、そのまま置くのはご一緒する方への気遣いという点では避けたいですよね。
国山: よかった、私はそうしていました! ほかにも気になるのが、一口食べて歯形がついたマカロンをどうしたらいいのかとか、こうした取材や往訪で出していただいたペットボトルのお水をどこまで飲むべきかとか……(笑)。
末永: 食べ方は、本能でもあり知性でもあるんです。人の素が見える部分で、教養も見えるのでおもしろい分野です。
でも、マナーってすべてに正解があるって、みなさん思われているんですが、最終的には臨機応変なんです。 どんなことでも、どんなタイミングでも、自分で決めて選ばなきゃいけない。
自分の振る舞いを、自分で決める経験を積んでいくうちに、他人が決めた答えを生きていくことを選んでいたような方でも、どんどん自信を身に着けていく様子がわかるんです。
私は、日本のマナーに対するマイナスなイメージを覆したいと思っています。
マナー講師ですと言うと、「今日は、ちゃんとしないとね」と構えられてしまうことが本当に多いんです。
でも、マナーは堅苦しくて不自由なものではなく、本当の意味で自分の人生を豊かにするツールです。そういうかたちでマナーが浸透すれば、もっと学びたいと思う人が増えると思うんです。
テレビでは芸能人の食べ方を厳しく叱るようなかたちで、マナーがエンターテイメントに使われがちですが、もっとマナーを知ることの豊かさが広まればいいなと思っています。
「やり散らかす」くらいがちょうどいい
国山: 野心的でいいですね! 私はメディアの経験を生かして、日本の文化や魅力を海外に発信するチャンネルを立ち上げたいと考えています。
先日、Xに投稿したんですが、アメリカで起業をしました。
【ご報告】
アメリカで起業しました!!… pic.twitter.com/gt6ZIvXxtl— 国山ハセン (@hasenkuniyama) February 28, 2025
日本には、食文化やマナーなど世界をリードするものがたくさんあります。これらを海外に発信していくことが一つの目標です。
同時に、海外の情報が日本に十分伝わっていない課題もあります。
情報が偏りがちになるので、自分が現場で感じたものを日本に向けて発信することで、情報が互いに行き交う状態を海出せればと思っています。
映像畑なので、チームを作ってプロジェクトに取り組んでいきます。
末永:わぁ、すごいですね。ぜひ、ご一緒できることがあれば、お声がけください。
ただ、私は「40歳が来る!」という強い危機感で会社を飛び出すことができましたが、チャレンジしたいけど悩んでる方も少なくないと思うんです。ハセンさんなら、そんな方に、どんな言葉をかけますか。
国山:みんな、なにか、やりたいことはあると思うんです。好きなことや得意なこと、友達に褒められたことでもいい。好きなものや得意なことを、まず発信してみて、そこから広げるといいかもしれません。
結局は「やってみる」ことに尽きると思います。
末永: たしかにそうですね。多くの方が風呂敷を広げるのを怖がりすぎていると感じます。行動に移さずに頭の中で考え続けていたり、お金を払うなら絶対に失敗したくないという気持ちが強すぎたり。
私もそうでしたが「やり散らかす」くらいの気持ちでいいと思うんです。
国山: 「やり散らかす」、いい表現ですね!やり散らかしていったら、いつかまとまっていくものです。自分自身、本当にたくさんのことをやり散らかしてきました。10個やったら、多分1個はこれだという答えが見つかると思います。
末永: 得意なものの定義は「続けられるもの」だと思います。私のビジネスの先生が「得意なものは人より突出しているものではなく、自分が続けられるもの。続けていれば絶対に人よりうまくなるから」とおっしゃっていて、なるほどと思いました。
国山: そして、なにが続いているかを思い返してみると、本当に自分が好きなものが見えてきますね。続かないことって、本当に好きなものじゃないんですよ。
末永: 趣味で続けていたものが、仕事になるパターンは多いですね。たとえば、私の生徒さんには、パン教室や筆文字講座を始めて人気講師になった方がいます。無理をして何者かになる必要はないですが、自分の「好き」を大事にしてほしいです。
国山: あと最後に、これだけでも覚えていてほしいのは「失敗」はないということ。
よく「やらない後悔よりやった後悔」と言いますが、やった後に後悔することって本当にないです。
第一歩を踏み出したことで得られた経験自体に価値があるので、どんと構えてやってみてもいいんじゃないでしょうか。
末永: 本当にそうですね。失敗ではなく「体験」ととらえるといいですね。
一見、失敗したかにみえても、それは大切なデータなんです。「あんなことがあったんだよね」と言えるネタにもなりますし、思った結果と違う結果が出たときって、むしろおもしろい発見があるものです。

お話する前は、ハセンさんと私に「共通点があるのかしら」とドキドキしていましたが、すごく似ている部分がありましたね。
頭の中だけで考えないで、まず「行動する」こと。その先にきっと人生をかけて取り組みたいことが見つかるので、記事を読んでいる方にも、どんどん踏み出してほしいです。
国山:私もこれから世界でチャレンジを始めます。なにかを始めたときから、その分野のプロフェッショナルな人は、世の中に一人もいません。でも、挑戦を続けていると、どんどん応援してくれる方が現れるものです。
「好き」を仕事にするって、そんなに難しいことじゃない。私は、そう信じています。
あなたの「好き」は仕事になる。
スマホで予約受付・事前決済・顧客管理まで、
サービス販売に必要な機能が充実。